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障がいと向き合い悩んでも、幸せな自分にもどってこれる。私が自分を受け入れるまで【千葉県】野口麻衣子さん

“障がい受容”とは障がいを受け止め、自分の中で向き合い、そして納得していくプロセスである。
一言で言えば、簡単だが、障がい受容という言葉の背景には、葛藤、悲しみ、慈しみ、多くの人間の感情が渦巻いているのだ。

脳性まひの子どもを持つ親に対し、子どもの障がいが受け入れられているか否か、それぞれの家族が直面した“障がい受容”に関し、母親たちに話を聞いた。

脳の損傷がわかり、なんども自分を責めた

野口麻衣子さんの次男こうたろうくんは、6歳。小学校入学を迎える。野口さん家族にとって二人目の男の子だ。妊婦健診の経過も問題なく順調に週数を重ねていたが、明日で28週目になるという日に突然陣痛があり、こうたろうくんを出産した。生後1ヶ月が経ったとき、主治医から脳に損傷があるかも知れないことを告げられ、4ヶ月目にMRIを撮ったときには損傷箇所がはっきり見えていたという。こうたろうくんは脳性まひの診断を受け、リハビリを続けている。現在は、親子通園(こども発達支援センター)に週に3日、子ども単独で通える児童発達支援センターに週2日通う毎日だ。

「出産後はどうしてこんなことになっちゃったんだろうと思い詰めました。緊急の出産だったから帝王切開ができなくて。自然分娩だったから無理して大きな損傷を負わせちゃったのかな、私のせいだな、って自分のことをすごく責めました」

主治医から脳の状態を告げられて、自分の子に大きな障がいがあることがわかったときは「嫌だ、絶対に受け入れられない」と思った、と当時の本音を隠さず語ってくれた。

私が「私」を受け入れてはじめて子どもと向き合えた

「でも、どうして嫌なんだろう、なんでこんなに受け入れられないんだろうと、ちょっとずつ、ちょっとずつ考えていけばいくほど、子どもの障がいのことを考えているようで、行き着く先は自分自身のことでした。そこには、他の子どもと比べて優劣をつけて安心したいと思う自分がいました。

野口さんは、自問自答を続けるなかで、長男を育てているときにも、無意識に優劣をつけて安心したり、不安になったりしていたことを自覚したと言う。

「外に連れ出しても、人がうちの子をどんなふうに見るんだろう?と周囲の目が気になっていました。でも、それも自分のことを映し出していると思って。私が障がいのある子をかわいそうと思って見てきたから周りの目も冷ややかに見えて気になっていました」

心の奥底にあった偏見、誤解を恐れずに言えば差別感情までも受け入れたところから、野口さんは子どもと向き合う一步を踏み出した。

「自分の気持ちを整理していくと、あるとき、こうたろうは本当にかわいそうなんだろうか?しんどいことはあるけど、本人なりに今とても幸せそうで、私の幸せもこうたろうの幸せも他人が決めることじゃないなと思えて、そこから周りのことも気にならなくなったんです」

自分の人生と、子どもの人生をわけて考えること

野口さんは、障がいはない方が良いという率直な思いを持ちつつも、現実として向き合い、子どもと自分の人生を分けて考えることが大切だと分けて捉える。悲観しているときは、「結局は何か自分が大変だな、ずっと子育てが終わらないのかなとか、そんなことを考えてるときなんですよね」と。野口さん気づいた。いつまでたっても受け入れられないと思っているのは、子どもの障がいよりも、むしろ自分自身の考え方なんだと。悲観的な考えにも無理に前向きになろうとすることをやめたときから、子どもとの向き合い方も変わっていった。

「やっぱり子どもには何も不便なく、自由に生き生きと好きなことをやって育ってほしいと思います。でも障がいがある事実は変えられません。そのうえで親にできることを考えるためには、まず自分の気持ちを受け入れないと子どもの状況って受け入れられないですし、子どもと自分の人生をごちゃごちゃにしちゃうんですよね。自分は自分、子どもは子ども。そう考えたときに、障がいのあることが子どもの人生なんだったら、私は親だから近くで応援して一緒に楽しく進みたいなって今は強く思ってます」

地域格差にとまどいつつも、幸せを感じる今

「医療的ケアの必要がなくても、座位が取れないと支援学校の送迎バスに乗ることができませんでした」

野口さんは、来年度のこうたろうくんの就学にあたり毎日の送り迎えの問題に直面した。送迎バスを利用できないとなると、親が1時間かけて車で送らなければならない。しかし、その条件も一律ではなく、地域や自治体により受け入れ条件が異なる。野口さんは考えたあげく、送迎バス利用が可能な地域への転居を決めた。

「転居先の支援学校では、新しい住所が決まれば、その住所を含めた送迎バスのルートをつくります、家から歩いて10分以内の場所に送迎しますと言ってもらえて安心しました」

こうした送迎の問題や受け入れ条件に悩んでいる方も多いのではないだろうか。福祉の地域格差や自治体格差は、切実な問題。転居するとなると家族の生活や仕事ごと変えなければならないが、それは簡単なことではないはず。そんな大きな問題に直面してもなお野口さんはおだやかだ。

「今は幸せです。家族が揃って笑っている、それが一番です。どう家族の時間を作ろうかっていうのが、我が家の一番の目標で大事にしているところですね。子どもとの時間もすごく大事に思えるようになりました。小さなことでイライラしたり、自分の不安を子どもにぶつけたりなんてことも本当にしなくなりましたし」

最後に、次のことも記しておきたい。野口さんは、障がい受容の過程で、自分自身の偏見や価値観と向き合うことになり、比較することや周りの目を気にすることから解放されていった。野口さんは家族の理解や支えもあり、先へ進むことができたが、母親が自責の念にかられ、相談相手もなく孤独なまま心を痛めるケースもある。子の障がいと向き合う親の「産後メンタルケア」のあり方はもっと対応を検討されるべきではないだろうか。

野口さんは自分の経験を役立てようと、ブログInstagramで積極的に育児のことを発信している。その理由をたずねるとこう返答があった。

「今、障がいのあるお子さんの育児で悩んでいる方に、私にもしんどい時期があって落ち込んだけど、今は前に進めている。だから安心して、きっと大丈夫だよって伝えたいんです」

取材・執筆:東善仁
写真:野口さん提供 撮影:岡原ゆきの

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